3月の料理
 


>>トチっけぇ

 とろりとなめらかにのばしたトチ粥に、黄色のキビが粒のまま練り込まれている。
香ばしい匂いが鼻先に漂う。
舌に乗せると、素朴な木の実と穀物の香りが口中にひろがった。
 添加物を一切排した深い味わいは、まさに原初の味。
アツアツはさらりとしている。
奥会津のいのちを支えた代用食である。

悦子さん
 嫁に来た頃、食べるもんがなくってこればっかり。
とっても食べられなかったよ。
 今は、これほどうまいもんはないと思って作るんです。
トチの芽が動き出したから、もうトチ晒しても苦みが抜けないね。
 水がぬるむと、トチ晒しはおしまいだ。
 今年はこれが最後のトチっけぇだね。
 いっぱい食べっといいよ。

 

トチっけぇふくれ餅


>> ふくれ餅

 手のひらより大きい揚げせんべい。
 練り込まれた山芋が膨張を助ける。
 寒のうちに作って寝かせ、春先まで保存する。
 お茶うけには無くてならないものだ。
 「ふくれ餅でも揚げっか」
のどかな憩いの場を、ゆったりと盛り上げるのがふくれ餅だ。
 ぬるい油と熱い油を用意しておき、
 ぬるい油でじっくりと広げて形を整え、
 熱い油で一気に揚げる。
 さっくりと甘いふくれ餅は、夢見心地で食すべし。

客その二
 わた飴食ってるみてぇだ。
 口に入れた途端溶けちまうね。
 なんだかキツネにばかされたようで、あと引くなぁ。

 

コンニャクの刺し身


>> コンニャクの刺し身

 うっすらと紅を差したような透明のコンニャクは、
 種を蒔いて5年目の芋を使った。
 1年目は親指ほど。
 2年目はみかんほど。
 5年経ってようやく林檎大に育ったコンニャク芋は、
 毎年土から掘り起こされて、4回の冬を越した。
 雪の下から採ってきたばかりの山ワサビを載せて、醤油でいただく。
 プルッと舌に吸い付く食感ははじめての体験だ。

客その一
 んまい!なんだこれは!
 んー、参った。
 買ったコンニャクなんて、もう食えねぇな。
 もう一皿食べていいっすか

 

お大根干しとアサツキの煮物


>> お大根干しとアサツキの煮物

 干した大根は独特の食感があり、栄養価も高い。
 毎日の惣菜によく登場する逸品のひとつである。
 大根干しはひなたの香り。
 アサツキは早春の香り。
 土と再会した喜びに、
 誰もが顔をほころばせてしまう。

 

きゅうりの佃煮

>>きゅうりの佃煮

 きゅうりは一日で10cmほどグンと育つ。
収穫期はどこの家でも毎朝毎朝山のようなきゅうりに悲鳴をあ げることもある。
 皮が固くならないうちにもぎ取って、
 酢と砂糖だけで二日間じっくりと煮含める。
 変身したきゅうりは、いちじくの砂糖煮に似た味がする。
一通りの料理を食べ終えたあとのデザートだ。

客その三
 生きててみるもんだ。
 こんなめずらしいもんが食える。
 不思議な食べ物だねぇ。
 う〜ん、んまい
っすよ、これ。

 

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